名古屋市名東区の司法書士 酒井健のブログ

相続手続きはいつまでに行う必要があるのか?

補助者
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誰かが亡くなったときの相続の手続きはいつまでに行わないといけないのですか?

本職
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基本的に相続があったこと知った時から「10か月」または「3年」もしくは「期限なし」の3パターンがあります。順番に見ていきましょう。
なお、個人的には遅くとも5年以内の手続きをお勧めしています。

相続手続は期限があると聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、実際どうなのでしょうか?この記事では期限がある場合、ない場合を解説しています。
※準確定申告、相続放棄や遺留分減殺請求にも期限がありますが、それは別の記事で紹介します。

免責事項

細心の注意を払って情報を掲載しておりますが、この情報の正確性および完全性を保証するものではありません。執筆時時点の法令を前提に記事を作成しており、法改正等によって結論が変わる可能性もあります。
なお、予告なしに、掲載されている情報を変更することがあります。


相続税申告手続の10か月

相続税が発生し、その申告が必要か否かは、亡くなった方がいくら財産を有していたかによります。

具体的には次の数式のとおりとなります。

遺産の総額(プラスの財産)を確定させる

現金、預貯金、不動産、自動車、株式、出資金、債券などのプラスの財産の総額を調査します。

負債の総額(マイナスの財産)を確定させる

借入金などマイナスの財産を確定させます。

STEP.1の額からSTEP.2の額を引く

この金額により相続税が発生するか否かが決まります。

基礎控除額を計算する

相続税には基礎控除額があります。計算方法は

3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

となります。

例えば、配偶者と子供が2名が相続人となる場合は、

3000万円+(600万円×3)=4800万円となります。

相続税の納付(相続税の申告)が必要か判定する

STEP.3の額からSTEP.4の額を引いた金額が、

プラスとなる場合は、相続税の納付(相続税の申告)が必要となり、

マイナスとなる場合は、相続税の納付(相続税の申告)は不要となります。

なお。具体的な税金の計算や相続税の納付に関しては税理士の業務範囲となり、司法書士は代理できません。

相続税法第27条第1項(相続税の申告書)

相続又は遺贈(略)により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格(略)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格(略)に係る第15条から第19まで、第19条の3から第20条の2まで及び第21条の14から第21条の18までの規定による相続税額があるときは、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から10月以内(略)に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない

不動産登記手続期限の3年(2024年4月~)

相続登記が義務化されます

2024年4月から不動産登記法の改正により登記名義人が亡くなってから3年以内に相続による所有権移転登記が義務化される予定です。

法務省から通知と相続登記の催促など所定の手続きを経た後で、相続登記がなされない場合で正当な理由のない申請漏れは10万円以下の過料の罰則の対象となります。

過料とは?

「行政上の秩序の維持のために違反者に制裁として裁判所の決定により金銭的負担を課す」ものです。過料については別記事に書いておりますので、こちらの記事もぜひご覧ください

「過料」とは何か?
改正不動産登記法 第76条の2第1項(相続等による所有権の移転の登記の申請)
※令和6年4月1日施行

所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

義務化の対象は?

2024年(令和6年)4月1日以降から相続登記が完了していない不動産が対象となります。

なお、この日以降に発生した相続のみならず、これ以前に相続が発生している不動産についても対象となりますので、おはやめに相続登記を行うことをお勧めします。

相続登記の代替手段

相続登記の義務化と同時に相続人申告登記の制度も開始となります。この制度を利用すると過料の制裁を免れることができるとされています。

ただし、「相続登記」とは似て非なるもので、この登記をしても所有者であることの公示はなされません。

期限なし

上記の手続きがなければ期限はなし

上記の手続きがなければ法律上、期限があるものはありません。

ただし、相続手続きの放置はお勧めしておりません。その理由は次項でご説明いたします。

参考:預金の払い戻し期限は?

法律上、銀行の預金の引出しは最後の取引から5年以内、信用金庫などからの預金の引出しは10年以内という期限はありますが、原則としてそれ以後であっても引き出しに応じてもらえるようです。

ただし、銀行でその内容を確認できない場合は引出しができなくなるようです。

私が最長5年以内をお勧めする理由

相続手続の期限は、上記のとおりなのですが、専門職としてはできれば5年以内の手続きをお勧めしています。

その主な理由は次のとおりです。

役所での証明書の取寄せができなくなる

かつては住民票の除票や戸籍の附票の保存期間が死亡の日から5年でした。そのため、登記簿上の住所と戸籍上の本籍とのつながりが証明できなくなり、そのままでは登記手続などをすることができません。

しかし、令和元年から保存期間が150年に延長されましたので、今後この問題はなくなっていくものであろうと思われます。ただし、すでに保存期間満了を迎えたものは廃棄されているため、この方の相続に関しては住所が証明できないので、やや迂遠な手続きを経なくてはなりません。

相続人が増え当事者が増えてしまう

相続権を有する方が亡くなると当初の相続人に加えてその方の相続人も相続手続きに関与する必要が出てきます。

とりわけ兄弟姉妹の相続に関しては、年齢が近いこともあり相続人が近い時期に亡くなってしまう可能性が他の相続の形態と比べて高いと言えます。

一般的に相続人の人数が増えてしますと、時間も費用も手間もかかってしまいます。

相続人が認知症などになり手続きが困難となる

相続権を有する方も年齢を重ねて認知症などになってしまうことも考えられます。認知症などの病気によってその意思を表示できなくなってしまうと、遺産分割協議などができません。

そうなってしまうと、成年後見人を裁判所に選任してもらわなくてはならなくなります。また、放置をしてしまえばいずれは相続人が増えてしまうこととなります。

相続の手続き費用が増えてしまう

いずれにしても、以上のような問題が発生すると手続き費用が追加で必要になります。5年以内の手続であれば何ら問題が発生しないとは言えませんが、5年を一つの目安としてできるだけ早く相続手続きに取り組んでいただければと思います。


本職
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できるときにできることをやっておいてもらうのが良いと思います。