名古屋市名東区の司法書士 酒井健のブログ

株式会社を設立する前に必ずチェック! 商号の調査方法と注意点

補助者
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株式会社設立時の商号の調査について教えてください。

本職
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国税庁の法人番号公表サイトで商号を調査すると効率よくできます。

併せて商号調査の必要性や司法書士が注意すべき点についてもお話しします。

この記事をご覧いただくと会社設立時の商号調査の必要性と効率的な調査方法がわかると思います。

また、個人的な見解ではありますが、会社設立に際し、商号に関する疑義が生じた場合の対応策についても考察します。

免責事項

細心の注意を払って情報を掲載しておりますが、この情報の正確性および完全性を保証するものではありません。執筆時時点の法令を前提に記事を作成しており、法改正等によって結論が変わる可能性もあります。
なお、予告なしに、掲載されている情報を変更することがあります。


同一商号・同一本店の禁止

司法書士が会社の設立の依頼を受けた場合には、まず最初にに会社の商号と本店所在地を確認すると思います。

なお、会社の実印や銀行印には、会社の商号を入れることが一般的ですから、商号についてまず商号調査をし、商号に問題がなければ依頼者に実印の作成を指示することとなるでしょう。

なぜこのような調査をするのかといえば、同一商号かつ同一本店所在地の会社が同一である場合は、登記をすることができないからです。

商業登記法第27条(同一の所在場所における同一の商号の登記の禁止)

商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあつては、本店。以下この条において同じ。)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない。

本職
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商号の同一の定義については、松井信憲著「商業登記ハンドブック 第4版」の8ページ以下をご確認ください。

なお、商号とは会社法上の用語ですので、一般的には「会社名」、「屋号」などと言われることが多いと思いますので、お客様には言い換えて説明してあげる方が良いと思います。

商号調査の必要性

では、同一商号・同一本店ではないということであれば、そのまま会社の設立をしても良いかと言われれば、そうではありません。

例えば、「世界のトヨタ」の「トヨタ自動車株式会社」の本店所在地は、「愛知県豊田市トヨタ町1番地」です。

では、同一本店所在地で「トヨ自動車株式会社」の設立を申請する場合は、商業登記法第27条の要件から外れるため登記できてしまいますが、なんだか問題があるような気はしませんか?

また、別の本店所在地で「トヨタ自動車株式会社」の商号の会社を設立する場合も問題があるように感じると思います。

もちろんそのような商号での会社設立は、違法行為です。その根拠は、会社法第8条と不正競争防止法第2条1項第1号・第3条・第4条です。

会社法第8条

1 何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない
2 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

不正競争防止法第2条(定義)

この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
1 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

不正競争防止法第3条(差止請求権)

1 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第5条第1項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる

不正競争防止法第4条(損害賠償)

故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずるただし、第15条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密又は限定提供データを使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。

つまり登記をすることは原則的にできますが、事後的に差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。

司法書士の職責上、不正の目的があるこのような登記申請は行うべきではないと考えられますが、依頼者が強硬に主張した場合にどう対応をするかは悩ましいものがあります(そんな人はまずいません)。

私なら不正の目的が推認される案件からは、手を引くと思います。どう転んでもそのような会社は後々良い方向に向かうことはないでしょうから。

本職
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法律は、不正の目的がある行為に関しては、事前救済ではなく、事後救済による解決の規定を置いています。

商号の調査はどのように行うか?

では、他社に損害を与えないことや他社からのクレーム対策ためには、称号の調査はどのようにすればいいのでしょうか?

法務省のシステムを利用する

司法書士であればオンライン登記申請や全部事項証明書のオンライン請求を行っていると思いますので、下記のリンクからオンライン登記情報検索サービスで検索をする方も多いと思います。

ただ、個人的な意見ですけどもUI(ユーザーインターフェース)が微妙な気がします。特に会社の検索がかなり癖が強く、条件を整えないとヒットしない気がするのです(特に各種法人の検索はかなり癖があります)。
また、運用時間が平日の9時から21時までとなっていますので、時間外の検索ができません。

国税庁のシステムを利用する(おすすめ)

もう一つの方法としては、国税庁の法人番号公表サイトを利用することです。

下記のサイトから進んでいただくと、商号又は名称の欄に設立しようとする会社名を記入(株式会社などの会社の種別の記載は任意)し、事情によっては都道府県・市町村を指定します。

このサイトはなかなか優秀で、ある程度のキーワードを打ち込めば該当する会社名が出てきます。

また、このサイトのいいところはほぼ24時間365日運用されていることです。休日の急な問い合わせにも対応することができます。

強いてデメリットを挙げるとすれば、設立したての会社は、法務省→国税庁の順で登録されるので、登録まで若干のタイムラグがあることでしょうか?

かなり使いやすいサイトとなっていますので一度利用してみてください。

本職
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このページにある法人番号は、税務申告用の番号ですので、厳密に言えば会社法人等番号とは異なります。

ただし、最初の1桁目を削除すると登記に利用できる会社法人番号となります。

どの商号まで許容するか(私見)

私個人の見解になりますが、私の場合は次のような運用をしています。

大企業やその関連企業を強く推測させるような商号の場合

この場合は、商号の変更を指示します。変更に応じてもらえない場合は、代理人から降ります。

大企業やその関連企業を推測させるような商号の場合

この場合は、リスクを説明の上、商号の変更を要請します。

変更に応じてもらえない場合は、リスクを説明しましたという念書を作成した上での会社設立となると思います。

大企業やその関連企業を推測させない商号の場合

同一都道府県内に同一商号の会社があれば、まず大丈夫だとは思いますが、一応不正競争のリスクを伝えます。

同一市町村内に同一商号の会社があるのであれば、郵便物の誤配が生じる可能性もありますので、不正競争のリスクを伝えた上で、可能なら商号を変更した方が良いのではないかと進言します。

それでも設立したいということであれば、リスクを説明しましたという念書を作成し、設立登記に応じると思います。

本職
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明らかに不正な場合を除いては、裁判所の事後審査を受けるしかないと思います。

司法書士として、そのリスクマネジメントはきっちりやっていただきたいと思います。