中途半端な自筆証書遺言があることによってもたらされる弊害を教えてください。
少なくない弊害があります。私の経験と問題点をお話しします。
また、中途半端な遺言は司法書士を悩ませます。
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遺言は作成したほうがいいのか?もくじ
有効な遺言だけど…
まず自筆証書遺言の有効要件を確認しましょう。
民法968条では、①全文を自書する、②日付を自書する、③署名をする、④印鑑を押すことが要件として掲げられています。
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
要件はこの4要件だけですから、印鑑は認印でも構いませんし、どのような紙に書いても構いません。
しかし、この4要件が満たされれば必ず円滑な相続手続きができるかと言われればそうではありません。
遺言が有効であっても登記手続などの行政手続や銀行の手続に利用できるかどうかは、また別の問題です。
これは、遺言の記載内容が不正確であったり不明確なため起こってしまう問題です。
私の経験上、自筆証書遺言が司法書士に持ち込まれた場合、何かしら手続で問題がある率は相当高いと思います。その原因はやはり遺言に記載内容に不正確なものや不明確なものがあるために起こっています。
私が経験したケースでは、遺言者の住所の記載が微妙に間違えていたケース(番地が違っていました)があります。
このケースではあれこれ手を尽くして何とか遺言書を利用して登記申請には持ち込めたのですが、登記官に却下されてもおかしくないケースだと思います。ちなみにこの遺言は某テレビに出ている弁護士が運営する事務所が監修して作らせた遺言だったのですが…
もう一つのケースは、「この不動産は○○が相続する」とは書かれていますが、その不動産の記載があいまいで、不動産の特定ができず登記手続で遺言が利用できなかったケースもありました。
その他考えられる問題
遺言で指定された財産が相続財産の一部しかなく、遺言書に記載のない遺産が存在する場合については、再度相続人間で遺産分割協議をする必要があります。
会社経営者の方が遺言を残されるケースについて、過去の記事で詳細に解説しておりますので是非ご覧ください。
遺言は作成したほうがいいのか?遺言を書いた後に、受取人を予定していた方が亡くなってしまう可能性もあります。
その場合は、亡くなった方が受け取る予定だった財産については遺言で定めがなかったものと扱われます。自動的に受け取る予定だった方のお子様が相続するわけではありません。
そのため、再度相続人全員で遺産分割協議をしていただく必要があります。
解決策
では、上記の問題を解消するためにはどのようにすれば良いのでしょうか?
遺言書に記載する住所、不動産所在地などは公文書を取り寄せ、その記載のとおりに正確に記載しましょう。
なお、不動産であれば登記事項証明書を目録としてそのまま流用することもでき、記載ミスを犯す可能性を低くすることができます。
不動産であれば、市役所で名寄帳を取得するといいでしょう。その際は市役所の職人に対して「非課税地も含めて出す」ようお願いしてください。
預貯金などは、通帳類を不足なく揃えてください。
株式もすべての銘柄を把握してください。
財産が多すぎるとか、現在どのような財産があるかわからないという方は、例えば「遺言者に属する遺産のすべてを○○に相続させる」といった遺言を残すことも可能です。
ただし、このような粗い指定方法は後々問題を起こす可能性もありますので、適用する際は慎重にしていただいと思います。
当初相続させる予定の方が亡くなってしまった場合に備え、例えば「~は、長男○○に相続させる。長男○○が遺言者より先に死亡した場合は、孫△△に相続させる」といった文言の遺言を残すこととなります。
この文言があれば、第一条件が不成立の場合であっても第二条件が成立し効力を有することとなります。
無効な遺言や不明確な遺言を作らないということであれば、公証役場で公正証書遺言を作成するという手段もあります。公証役場は元裁判官や元検察官といった法律のプロフェッショナルが関与して作成する遺言です。
公正証書遺言については、公証人役場のページをご覧ください。
司法書士等の専門家の監修を受けるのはどうでしょうか?
みなさまの事情をお伺いし、様々なチェックポイントを考慮した上で正確で正当な遺言をおつくりすることができます。
また、公証役場は公的な機関であり踏み込んだアドバイスをしてもらえるかはわかりませんが、民間である司法書士なら一歩踏み込んだアドバイスができるかもしれません。
さらに公正証書遺言と併せ、司法書士が関与するとその確度はかなり高いものとなります。
リスクと費用を比較して選択していただければと思います。