名古屋市名東区の司法書士 酒井健のブログ

遺言は作成したほうがいいのか?

補助者
補助者

“終活”の一環として遺言書を作成が推奨されているところですが、本当にそうなのでしょうか?

本職
本職

依頼者の状況によると思います。まずは正確に現在の状況を把握しましょう

免責事項

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遺言の一般的効用

遺産分割協議が不要である

遺言を残している場合に、遺言者が亡くなった瞬間、遺言書に記載された遺産は、そのとおりに財産が帰属することになります。

遺言の内容を実現するために、原則として他の相続人の関与は不要となります。

遺言者の指定した財産の分け方になる

遺言者が指定した通りの財産分けが実現しますので、例えば配偶者は預金を、長男は土地建物を、次男は株式をといった具合に振り分けることができます。

特に不動産は、共同所有ではなく単独で相続するのがセオリーですので、混乱は少なくなると言えます。

相続人以外にも財産を残すことができる

遺言によって、財団法人や公益的な活動を行う法人に財産を寄付することもできます。
もちろん、例えば介護を行った人物(例えば息子の奥様)などに対して財産を残すこともできます。

逆に言えば、遺言者がどれだけ希望をしていても遺言がなければ相続人以外に財産を残すことはできません

一般的に遺言を書くことをお勧めする方

相続人間で争いのある可能性が高い方

上にお話しした「遺産分割協議が不要である」の効用を利用します。

遺言があれば、相続人間で話し合う必要がありませんから、受取人に指定された方は直ぐに名義書換手続に移れます。

なお、そのほかの相続人から遺留分減殺請求の可能性もあり、その点は十分に考慮していただきたいと思います。

事業をされている方

上でお話しした「遺言者の指定した財産の分け方になる」の効用を利用します。

事業用の財産については、優先的に事業を継いだ人に承継させることができます。

相続人がいない方

上でお話しした「相続人以外にも財産を残すことができる」の効用を利用します。

もし、誰か残したい団体や個人がいるのでしたら遺言を書く必要があります。なお、相続人がいない方の財産は、原則として国家に移転します。

相続人に障がい者の方や認知症の方がいる場合

遺言がなく遺産分割協議をする必要があるとき、意思を表示できない相続人がいた場合、相続手続が停止します。

その場合であっても、裁判所に後見人選任の申立てをするなど手はあるのですが、これらの手続きにそれなりに時間がかかります。

そうしているうちに相続税申告期間の10か月を迎えてしまうことも考えられます。

相続手続きはいつまでに行う必要があるのか?

ケーススタディ

しかし、遺言があることによって家族関係が混乱する恐れもあります。次のケースを見てみましょう。

①自らの会社の株式の全部を保持している社長が、2000年に「長男に全ての遺産を相続させる」旨の遺言を残しました。

②2020年にその会社の経営を二男に譲りました。

③その後、社長が亡くなりました。遺産は自宅土地、自宅建物、会社の株式、預金です。

④社長の相続人は、妻、長男、次男と3名です。

相続関係はどうなる?

遺言に従った相続になりますから、自宅土地、自宅建物、会社の株式、預金はすべて長男が取得することとなります。

したがって、妻と二男には遺産はありません(妻に対して配偶者居住権が発生する余地はあります)。

遺留分減殺をすると?

ケーススタディの場合ですと、次男と妻は長男に対して遺留分減殺請求(相続財産の返還)ができます。

具体的な金額は、遺産の総額によりますのでケースバイケースですが、遺留分の侵害の割合は次のとおりとなります。

遺留分請求者遺留分率
二男8分の1
二男+妻(二男の母)8分の3(8分の1+4分の1)

妻(二男の母)と協力して8分の3分の権利を行使する場合は、金銭を要求できるだけであって株式を渡すような請求はできません。したがって、会社は長男が完全に支配することとなります。

こうなってしまったからには、長男と次男が共同で会社経営ができるのが望ましいとは思いますが、果たしてうまくいくのでしょうか?

協議することもできるが…

遺言がある場合でも、一定の要件を満たせば相続人による遺産分割による相続を選択することも可能です。

しかし、長男の意識として「財産を取られる」側になりますので、遺言書がない場合と比較して強気の交渉となるかもしれません。

さらに、長男に債務があるなどの事情があれば、そもそも遺産分割協議に応じる見込みも薄いでしょう。

最悪なのが長男に会社の株式を第三者に売却されてしまい、その結果、会社が乗っ取られる可能性すらあるのです。

結論

遺言書は基本的にお書きになったほうがいいとは思いますが、財産関係、家族関係、利害関係、今後の見通しを整理したうえで適切な遺言書を残していただきたいと思います。

その際は、是非専門家にアドバイスを仰いでいただければと思います。

本職
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何もしないのも終活の一つなのではないかと最近思っています(それでは司法書士は儲からないけど…)

遺言書がない場合でも、体感的に9割以上揉めない気がします。