
相続登記において、登記記録上の住所と被相続人の本籍や住所が一致しない場合はどうすればいいのでしょうか?

登記識別情報や登記済証を添付するケースが多いですが、いろいろバリエーションがあります。
この記事は、登記研究831号「被相続人の同一性を証する情報として住民票の写し等が添付された場合における相続による所有権移転の登記の可否について」を参考に私の実務での経験を加味して作成しています。
参考文献
被相続人の同一性を証する情報として住民票の写し等が添付された場合における相続による所有権移転の登記の可否について
登記研究 2017年 831号 133ページから145ページ
基本形(住所が一致する場合)
不動産登記では、所有権の場合、住所と氏名が登記されます。一方で、戸籍には本籍地と氏名が記載されています。
誰かの相続登記で、相続を証する書面として戸籍を提出しますが、戸籍に記載された死亡した本人と登記名義人は氏名しか一致しないことになります。氏名だけの一致で同一人とみなし、相続登記を行ってしまっても問題ないのでしょうか?
戸籍に記載の本籍地・氏名と登記記録に記載の住所・氏名が一致している場合は、同一人とみなして相続登記をして問題ありません。
かつては住所地を本籍とするルールがあり、この名残が登記実務に残っているものと推測されます。
なお一致すべき本籍は、被相続人の最後の本籍のみでなく、かつての本籍地であっても大丈夫です。相続登記の場面では住所と氏名の一致が厳格には要求されていないようです。
一方で、本籍地の記載と登記記録上の記載が一致しないときは、住民票の除票(本籍地付)や戸籍附票を取り寄せ、住民票又は戸籍附票上の住所と登記記録上の住所の一致を確認することとなります。ここで確認が取れれば同一人とみなして相続登記をすることができます。
少し前までは、住民票と戸籍附票の保存期間は抹消後5年と短かったのですが、現在は150年と保存期間が飛躍的に伸びましたので、今後はこの方法で処理することが一般的になると思われます。
ただし、司法書士の実務経験上、本籍地が一致するかどうかにかかわらず、住民票か戸籍附票を添付するケースが圧倒的に多いように感じます。
変化形(住所が一致しない場合)
しかしながら、戸籍附票などが市役所の保存期間の満了により入手できないケースを十分にあります。
その場合に、被相続人の同一性を証明し相続登記を行う方法をお話しします。
なお、直接的に被相続人の同一性を証明できない場合であっても、「証明できないことの証明書」として、住民票または戸籍附票は法務局に対して提供することになると思われます。
住所が一致しない場合で、最も強力なものは所有権取得時に交付された登記済証(いわゆる権利証)とされています。該当する登記済証が添付できれば同一人とみなして相続登記をすることができます。
登記済証は、登記名義を取得した際に名義人に直接交付されるもので、所有者がそれ自体を売買したり譲渡したりする行為は通常考えられず、所有者の家に保管されるのが通常です。
そのため、登記済証を所持していることは所有者であったことが推認されるのです。
登記識別情報が発行されている場合も同様の考え方になるのではないかと思います。
なお、経験したことがなく、まったくの私見ではありますが、登記識別情報が発行された所有者の相続登記の場合は、12桁の登記識別情報を提供するのではなく、12桁の登記識別情報とともに、その書面全てを法務局に提出する必要があるのではないでしょうか?あくまでも「そのもの」を所持していることが所有権の証明となっていると考えるからです。
住所が一致しない場合であっても、登記済証があれば、概ねそれだけで解決しますが、権利証をなくされている方も多くいらっしゃいます。
その場合についての対応方法を次に記載します。ここからは1点の提供では足りず2点以上を提供して(合わせ技で)証明することとなります。
また、登記官の判断によるところも大きいですので、登記申請の前に法務局への照会をお勧めします。
市町村役場で発行される固定資産税の納税証明書や評価証明書(3年分が目安)を提供する方法です。
他人の不動産に対して固定資産税を負担することは考えにくいので、所有者であることが推認させます。したがって、被相続人がその不動産について固定資産税を支払っていることの証明書を提出します。
ただし、登記名義人の所有であることは証明できますが、戸籍上の人物が所有していたことを証明はできないので、証明力としては弱めになります。
相続人が「所有権登記名義人と死亡した者は同一人物である」旨の上申書を作成し、提出する方法です。
ただし、死亡した者が所有権登記名義人であることの客観的な証明にはなりませんので、証明力としては弱めです。経験上、登記済証が添付できなければ必ず要求されるように感じます。
なお、この上申書には相続人全員の実印を押印し、印鑑証明書を添付します。
所有権登記名義人の住所に対して、本籍と住所がないことを市町村が証明する不在籍証明や不在住証明書を提供する方法です。
仮に所有権登記名義人の住所上に該当する本籍地や住所を持っている同一氏名の人物がいる場合、その者が所有者であることが強く推認されます。一方で、所有者ただ推認される人物がいないため、登記申請に内容の真正はそれなりに高いとも言えます。
ただし、直接的に所有者であることを証明するものではないので、証明力は弱いです。
まとめ
住所が一致しない場合の対応を表にまとめると次のとおりとなります。
態様 | 本籍一致 | 住民票・附票で 立証成功 | 登記済証添付可能 | 登記済証添付不能 |
---|---|---|---|---|
住民票・戸籍附票 | ||||
登記済証 | ー | |||
評価証明書 | ||||
上申書 | ||||
不在籍・不在住 |

登記官によってはこの基準のとおりに運用したり、もっと厳格に運用する方もいらっしゃるようです。
ややこしい相続登記についてはお近くの司法書士にご相談いただければと思います。