どうしても高い費用を払って登記をする必要があるのでしょうか?
司法書士という立場もありますが、登記をする事を強く推奨します。
なお、この記事はこちらの記事の続編です。
Youtubeでこんな投稿がありました(ケーススタディ)
ふとYoutubeを見ていたらこんな動画がありました。
該当部分は14分3秒からです。
ちなみに、司法書士にとってはこのチャンネルの動画は、いずれも興味深いテーマを扱っていますので、同業者は是非ともご覧いただければと思います。
宮地議員の発言は、134番目からで、動画中の発言は160番目です。
何が起こっていたか?
動画の内容を要約すると下記のとおりなのではないかと推測されます。ただし動画でも国会の議論でも詳細な権利変動の情報はないので、この先は想像でのお話となります。
その際に金融機関からの借入れがあり、磯村建設名義の所有権取得の登記と金融機関からの根抵当権(担保権)の新設の登記行う
広大な土地を住宅地として売却するために、住宅用地として適切な面積で区画を区切り、その旨の登記(分筆登記)を行う
個人への販売の際に、磯村建設から購入者への所有権取得の登記とSTEP.1で設定した根抵当権が消滅した旨の登記を行っていない可能性が高い
磯村建設の租税債権(例えば法人税の滞納など)を被担保債権とする差押登記がされる
何が問題なのか?
まず予めお断りしておくと、現代の日本社会では前に述べたようないい加減な土地の売買は行われる可能性はかなり低いと言え、現代社会ではレアケースなのかもしれません。
なぜなら、土地の購入時に借り入れがあれば、金融機関はこのようないい加減なことは許しませんし、司法書士が入れば後述するように何かしらの警告をするはずです。しかし、例えば個人間での現金での売買など、現代社会でも発生する可能性はないとはいえないと思われます。
前に挙げた状況では、磯村建設から購入者に所有権が移ったのは間違いありません。ただし、新所有者名義の所有権移転登記が完了していないという状況になります。
一方で、大蔵省は磯村建設名義の土地に対して差押をしています。大蔵省は、土地を競売する権利を得たと言っても過言ではありません。
つまりこの事例ですと、購入者である真の土地所有者と真の所有者の了解がなくとも土地を競売できる大蔵省との間で利害が対立してしまいます。
この状況に適用されるのが民法第177条です。また、下記の判決も参考になります。
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
・国税滞納処分による差押については、民法第177条の適用があるものと解すべきである。
・登記の欠缺を主張する第三者がこれを主張するにつき正当の利益を有しない場合とは、当該第三者に、不動産登記法第4条第5条により登記の欠缺を主張することの許されない事由がある場合、その他これに類するような、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事由がある場合に限るものと解すべきである。
・国が国税滞納者に対する滞納処分として登記簿上滞納者名義の不動産を差し押えた場合において、差押の約3年6箇月前に右不動産の譲受人から移転登記の未経由にかかわらず該不動産がその所有に属する旨の財産申告を受け、これを前提として財産税を徴収した事実があつても、それだけでは、国は、登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者にあたらないとはいえない。
以前の記事でもお話しした通り、登記をすることは所有権の取得を完了させるなど、自らが有する権利を確定させる行為です。民法は、自らの権利を保全する意思のない者は不利益を被っても仕方がないという考え方を採ります。
前記の判例や民法に照らし合わせれば、大蔵省と所有者のうちどちらを優先するかは、登記の有無によって決定されます。
大蔵省は、差押登記を有しますから、真の所有者に勝ることとなります。その結果、真の所有者は土地の所有権を失うこととなるでしょう。
もちろん、磯村建設に対してその被害について損害賠償請求をすることは理論上可能ですが、破産をしているとのことですので、被害額の回収は困難を極めます(といいますか、まず期待できません)。
したがって、権利取得の際は不動産登記を行うことは非常に重要だといえます。
司法書士ならこうする
一般的な司法書士(といいますかほぼすべての司法書士)であれば、分譲業者名義の担保を解除していないことに何かしらの警告をするはずです。
また、所有権を取得しているのにもかかわらず不動産の登記を行わないというリスクについても説明があるはずです。
一般市民の皆様にとっては、土地の売買時にちょろっと出てきて報酬を持っていくような存在に映るかもしれませんが、裏で司法書士はコソコソと仕事をしているわけです。
もちろん司法書士であっても、代金の授受の直前で所有権を第三者に取得させるなどの悪質な行為に対しては対応しきれないものがあることもまた事実ではあります。現行の制度下では、そのリスクは致し方がない部分はありますが、そのような事態に至ることは稀ですし、聞いたこともありません。
というわけで、登記は正しく行うことを当事務所は強く推奨します。
(ポジショントークではありますけども)不動産の権利関係に関するお困りごとは、お近くの司法書士までどうぞ!