3行でわかる!この記事の要約
- 「ムード」から「言語化」へ
司法書士特別研修は感覚的な理解を卒業し、法律知識を論理的に説明する「言語化力」を身につける場である。 - 研修前の準備は「アイドリング」
倫理や難関本には手を出さず、岡口基一著『要件事実入門』をパラパラ読んで全体像を掴む程度で十分である。 - 研修への臨み方と今やるべきこと
時間の融通が利く年内に長期旅行へ行き、研修開始後は前半戦の理解不足を残さないことが重要である。

司法書士試験に合格した後の特別研修や認定考査対策を教えてください。

早めの対策とやりたいことをやることをお勧めします。
なおこの記事は、訴訟初学者に向けての記事です
司法書士試験に合格された皆様、まずは本当におめでとうございます!司法書士の世界へようこそ。
長きにわたる過酷な受験勉強を完走し、見事に栄冠を勝ち取られたこと、心よりお祝い申し上げます。今は勉強から解放され、安堵と達成感に浸っている頃かもしれません。
……と、祝福の言葉も早々に、皆様の前に立ちはだかるのが「特別研修」および「認定考査」の壁です。
私は、何を隠そう現在特別研修の地区委員(地区のトップ)を務めております。
「トップ」と言っても、何か絶大な権力を振るって裏情報を握っている……なんてことは全くありません(まあ、特別研修の修了認定の可否は私の専権事項ではあるので、権力があるといえばあるのかも)。
日々、研修が円滑に進むよう裏方で汗をかいているのが実情です。
今回は、そんな特別研修の現場に身を置く先輩実務家のひとりとして、
・合格から特別研修開始までに何をやっておくべきか?
・必要書籍や心構え
・特別研修を受ける本当の価値とは何か?
について、ちょっとだけおもしろくおかしくお話ししたいと思います。
「ムード」から「言語化」へ
もし、あなたが相談者から「車に轢かれて怪我をしました」と法律相談を受けたらどうでしょう?
高い法律知識を持つ合格者の皆様であれば(もっとも、この場合は一般常識的にも答えられそうではありますが)、「それは相手に損害賠償を請求しましょう!」と即座に回答するはずです。
では、なぜ損害賠償請求が可能なのか、法的な筋道を立てて論理的に説明することはできますか?
「ええと、車に轢かれて痛い思いをしたし、治療費もかかるわけだから……」といった説明しかできないのであれば、厳しい言い方をすれば、それは法律家としてではなく「ムード(雰囲気)」で回答しているにすぎないのです。
プロの実務家であれば、民法709条の不法行為を念頭に置き、①相手方の故意・過失、②権利侵害(生命・身体への侵害)、③損害の発生、④加害行為と損害との間の因果関係という要件をひとつずつ抽出し、どの事実によってそれらが充足されるのかを論理だてて「言語化」にしなければなりません。
実務に出ると、依頼者、裁判所、あるいは相手方の弁護士と対峙することになります。そのとき、「いや〜なんとなく雰囲気がそうなんですよね」では一歩も前に進みません(間違いなく、裁判所から冷ややかな目を向けられるし、いや~な空気が流れます)。
でも大丈夫です。みんな最初はそんなもんですから。
特別研修は、この感覚的なムードから卒業し、自分が知っている法律の知識を誰にでも伝わる言葉として「言語化」する力へと昇華させるための集中トレーニングの場だと考えています。
要件事実に過度な苦手意識を持つ必要はない
「要件事実」と聞くと、何か難解な特殊言語を学ぶようなイメージを持ってしまい、身構えてしまう合格者の方もきっと多いと思います。
ですが、かなり乱暴な言い方ですが、要件事実なんて「条文から要件を抽出して、立証の負担(証明責任)をどっちが負うかを配分するだけの話」です。
- 法的にこの効果を発生させるには、条文上どのような事実が必要か?
- それを原告と被告のどちらが主張・立証すべきルールになっているか?
本質はこのパズルを整理しているだけに過ぎません。
ですから、最初から苦手意識を持つ必要は全くありません。いまは「なんだ、条文の整理整頓と役割分担のルールの話か」くらいに気楽に捉えておいて大丈夫です(そうは言うものの、奥は深いわけですが)。
いま何から手を付けるべきか?(と、触らなくていいもの)
合格発表から1月の新人研修、配属研修、そして少しのインターバルの後、特別研修へと続くこの期間、「何を勉強しておけばいいですか?」という質問をよく受けます。
まず大前提として、私は暇のある人であっても「猛勉強しろ」とは言いません。
ここまでフルスロットルで頑張ってきたじゃあないですか。少しくらい休みましょうよ。
ただし、完全に脳をオフにして放置するのではなく、いつでもエンジンを吹かせるように、アイドリング状態を保っておくことを強くおすすめします。
完全にシャットダウンしていると、再起動には予想以上のエネルギーを要します。
司法書士倫理(司法書士行為規範)は、個人的には研修が始まるまでそこまで深く触らなくていいと考えています。
弁護士業界では、修習生の段階や事務所の師匠(ボス弁)から「利益相反」について口すっぱく指導されると聞きます。
一方で、我々司法書士が受験勉強や実務で親しんできた不動産登記申請業務は、例外的に民法上双方代理が認められる(債務の履行とされる)世界です。
私たち司法書士は、民法上の例外をあたかも原則であるような錯覚持ってはいないでしょうか?
つまり、登記の感覚のまま裁判業務で求められる倫理や利益相反(双方向受任の禁止など)の規定に事前に触れようとすると、既存の感覚とのギャップでかえって混乱してしまいがちです。
双方代理が当たり前だった世界から、対立当事者の世界へ頭を切り替えるには、特別研修の講義で体系的に触れるのが最もスムーズです。
ですから事前に触れる必要はそこまで強くなく「まあ、そんなもんなのかなぁ」って感じでとりあえずはOKです。特別研修終了後に、司法書士業務の感覚とは全く別物であるという認識をもって勉強した方が理解が進む気がします。
また、要件事実と比べると短時間で認定考査の対策がやりやすい分野であるとも考えています。
誤解しないでいただきたいのが、決して勉強しなくていいわけではなく、「現段階では」優先順位が低いということです。疎かにすると高確率で認定考査落ちますからね…
特別研修といえば指定される必読図書や、認定考査対策には定番の「認定司法書士への道」が有名です。
本記事をご覧の方もこれらの書籍を「よし、気合を入れて事前読破だ!」と意気込む方もいるかもしれません。
ですが、ちょっと待ってほしい。
民事訴訟実務初学者が、知識ゼロの状態でいきなり「認定司法書士への道」に突っ込むのは、例えるなら「普通免許を取り立ての人が、いきなり8トントラックに乗るようなもの」です。
※私の運転免許はいにしえの普通免許で、「中型車は中型(8t)に限る」と書いてあるためこの表現です。イメージとしてお聞きください。今の免許制度だと、3.5t未満になるような気がしますが、その辺正直よくわかっていません)。
操作方法、車両特性や車幅もあやふやなまま8t車を運転させられたら、事故るか、恐怖で運転が嫌になるだけですよね。
もちろん、研修が本格化し、認定考査を迎える頃には、これらの定番書籍や指定教材(必読図書)をマスターしていただく必要があります。しかし、研修開始前の助走期間(特に年内)に無理をして高負荷な本に挑むと、開始前に燃え尽きてしまいます。
では、エンジンを切らさずに温めておく「ウォーミングアップ(アイドリング)」として何を読むべきか?
私のおすすめは、岡口基一著『要件事実入門』です。
この本は、要件事実の基本的な考え方や「請求原因・抗弁・再抗弁」という構造のフレームワークを、非常に分かりやすく初学者向けに解説しています。
事前準備としては、この本をパラパラと読んでおき「要件事実ってこういう思考の組み立て方をするんだな」という全体像(フレームワーク)を頭の片隅に入れておくだけで十分です(あと私が最初に言った、条文から要件を抽出する作業も怠らずに)。
これだけで、特別研修が始まったときのグループワークや議論への「入りやすさ」が劇的に変わります。
上記は、あくまでも年内に限定した話であって、年が明けたらだんだんと強度の強い教材に変えていってもらえればいいと思います。もっともこれは理想論であり、実際はなかなかそうはならないというのが実情ではあります。
また、ロースクールに通っていたなど、要件事実に造詣の深い方については、一気に高強度の教材に手を出しても問題はないと思います。
【超・現実的なアドバイス】年内に「長期旅行」に行け
そして勉強以外で、合格者の皆様に一番強く伝えたいこと。
それは……「年内にまとまった長期旅行に行っておくこと」です。
これはもう実務家全員が口を揃えて言うアドバイスですが、勤務司法書士になろうが、独立開業しようが、本格的に仕事を始めると長期の旅行なんて行っている暇がないのです。
時間の融通が利くのは、今この瞬間だけです。
……もっとも、私自身は独立した当初、クッソ暇すぎて秋の全国旅行支援をフル活用し、北海道へ3泊4日の旅行に行ったりしましたけども(笑)
まあ、そんな特殊事例は置いておくとして、仕事が軌道に乗れば乗るほど「数日間、完全にオフにして遠出する」というハードルは上がります。まあ、気合と根性さえあれば、平日に2泊3日くらいの旅行に行くことは全然可能だとは思いますが。
ぜひ今のうちに、行きたかった場所への旅行ややりたかったことをして、羽を伸ばしておいてください。

金があれば、合格した年に欧州にでも行ってみたかったなぁと思うわけで…
担当者から見つめる 特別研修への臨み方
最後に、特別研修地区委員としての個人的な感想(※繰り返しますが公式見解ではありません!)を少しだけ。
研修の講師陣や運営陣は、受講者の皆様を落としたり、意地悪をしたりするためにいるわけではありません。全員が「実務家として通用する思考回路を身につけてほしい」と本気で願って向き合っています。嘘だと思うかもしれませんが本当です。
だからこそ、受講にあたって絶対に守ってほしい心構えがひとつあります。
それは、「やり残し、後回し、理解不足は絶対に厳禁」ということです。
特別研修のスケジュールは、後半に行けば行くほど起案や高度な議論が重なり、日程的にも精神的にも一気にタイトになります。
「まあ前半のここは、後で復習すればいいか…」「このビデオは後で見ればいいか…」と先延ばしにすると、後半戦で確実に崩壊し、間違いなくついていけなくなります。できれば前倒しして取り組んでほしいくらいです。
前半戦で出てきた疑問点や要件事実の基礎は、その日のうちに必ず消化・解決してください。そうでないと詰みます。
特別研修は、「間違えることが許されている現場」です。
実務に出てからのミスは笑えませんが、研修中のミスは成長の糧でしかありません。失敗を恐れて発言を控えるのではなく、疑問があればその場でぶつけ、前半戦から全力で食らいついていきましょう。
あとは、真剣に取り組んだ方が単純に楽しいと思います。
この記事のまとめ
特別研修は、ぶっちゃけ大変です。課題に追われ、議論に悩む日々が続きます。
しかし、その苦楽を共にしたグループのメンバーや同期は、あなたの司法書士人生において「同期ネットワーク」になります。実務に出て困ったとき、真っ先に相談し合えるのは、きっと研修で一緒に汗をかいた仲間たちです。
どうぞ怖がらず、かといって気を張りすぎず、まずは『要件事実入門』あたりを気楽にめくりつつ、アイドリングし、美味しいものでも食べて旅に出て、研修開始までの貴重な時間を過ごしてください。
それでは特別研修中部地区の現場でお会いできる日を、心より楽しみにしています!

ちょっと宣伝です。新人司法書士向けにこんな記事も書いています。

私もはやく司法書士試験に合格して、特別研修を受けられるように頑張ります。

ぜひ頑張ってください。
ところで例年特別研修の会場と司法書士試験の模擬試験の会場が同じ場所になることが多く、「司法書士特別研修」の文字を見てモチベーションアップしていた方もいらっしゃいます。
この記事が、皆様が司法書士としての一歩を踏み出す際のマイルストーン(道標)となれば幸いです。
本記事ではAI(Gemini)を文章の構成・表現の整理に活用しています。取材・撮影・一次情報の収集および内容の確認・最終編集は筆者が行っています。また、サムネイルもAI(Gemini)を使用して作成しています。
塩基大納言絵巻episode5 