名古屋市名東区の司法書士 酒井健のブログ

「過料」とは何か?

補助者
補助者

「過料」とはなんですか?

本職
本職

国民に対する「行政罰」の一種です。刑罰(刑事罰)ではありません。

2024年から相続登記の義務化が予定されています。この義務に反すると「過料」が課されることとなっています。

では、この「過料」とはいったい何なのでしょうか?この記事を読んでいただくと「過料」の正体がわかります。

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過料の規定がある条文

司法書士業務で過料として多く出くわすのが、会社法違反事件です。役員変更時など会社には登記義務が発生しますが、期限内に登記申請が完了できなかった場合、この罰則を負うことになります。

また、2024年からは相続登記の義務に反すると同様にこの罰則を負うことになります。

改正不動産登記法 第164条(過料) ※令和6年4月1日施行

1 第36条、第37条第1項若しくは第2項、第42条、第47条第1項(第49条第2項において準用する場合を含む。)、第49条第1項、第3項若しくは第4項、第51条第1項から第4項まで、第57条、第58条第6項若しくは第7項、第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。

改正不動産登記法 第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請)
※令和6年4月1日施行

1 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
2 前項前段の規定による登記(民法第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第4項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
3 前2項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、適用しない。

会社法第976条(過料に処すべき行為)

発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、会計参与若しくはその職務を行うべき社員、監査役、執行役、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、清算人、清算人代理、持分会社の業務を執行する社員、民事保全法第56条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役、執行役、清算人若しくは持分会社の業務を執行する社員の職務を代行する者、第960条第1項第5号に規定する一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役若しくは代表執行役の職務を行うべき者、同条第2項第3号に規定する一時清算人若しくは代表清算人の職務を行うべき者、第967条第1項第3号に規定する一時会計監査人の職務を行うべき者、検査役、監督委員、調査委員、株主名簿管理人、社債原簿管理人、社債管理者、事務を承継する社債管理者、社債管理補助者、事務を承継する社債管理補助者、代表社債権者、決議執行者、外国会社の日本における代表者又は支配人は、次のいずれかに該当する場合には、100万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
1 この法律の規定による登記をすることを怠ったとき。
   以下略

過料とは?

過料の性質

過料は「行政罰」と呼ばれるものであって刑罰(刑事罰)とは異なります

裁判所のホームページによると、「過料とは,行政上の秩序の維持のために違反者に制裁として金銭的負担を課すもの」と説明されています。

言い換えれば「法律上の定めに違反したので、ある種の罰金を支払ってください。ただし、重大な法律違反ではありませんので刑事手続にはなりません」といったところでしょう。

過料の額を決定するのは?

過料を科すか、科すのであればいくらにするのか決定するのは裁判所です。

もう少し詳しくお話しすると、役員変更登記を放置した例なら、①法務局から裁判所に登記義務を懈怠している旨の通知をし、②その後裁判所が過料の決定をします。

なお、過料の具体的な金額が気になる方が多いと思います。先ほど例に挙げた役員変更登記を放置した場合は、法定の過料は100万円以下とされています。

会社法違反事件において司法書士業界では「逃れた登録免許税分が課せられるのではないか」とまことしやかに言われています。しかし、あくまでも過料は裁判所が定めますので、法律の定めのとおりの「100万円以下です」としか言うことができません。

反則金のイメージ?

厳密にいうと軽微な交通違反の時に切られる「青切符」をイメージしていただけるといいと思います。

「青切符」は反則金と呼ばれ行政罰の一種です。反則金を支払ったからと言って刑罰を受けたと考える方は少ないのではないでしょうか?

なお、「反則金」は納付しないと刑事手続に移行しますのでご注意ください(過料は支払わなくても刑事手続には移行しません)。また、重大な違反時に切られる「赤切符」は略式の罰金刑ですので刑罰の一種です。

過料は刑罰なのか?

「過料」と「科料」

「過料」はお話ししているように行政罰ですので刑事罰ではありません。

その一方で「過料(かりょう/あやまちりょう)」によく似た用語として「科料(かりょう/とがりょう)」があります。こちらの科料は、過料と異なり刑事罰です。同じ読み方をするのでちょっとややこしいですね。

刑事罰ということで科料が支払えないと最悪の場合は身柄拘束をされる可能性がありますし、いわゆる前科一犯ということになってしまいます。

それぞれの特徴をまとめると下記の表のとおりとなります。

過料科料
種類行政罰刑罰(刑事罰)
前科なしあり
上限
※私が知る限りで
100万円以下(会社法)1万円未満
支払わない場合財産の差押財産の差押
労役場留置(身体拘束)